カトリック百合ヶ丘教会マリア会主催:音楽講座

[第三回] 2010年9月4日(土):国本静三

   バロック・オペラの秘宝!

パーセル:オペラ「ディドーとアエネアス」


A.パーセルについて


 ヘンリー・パーセル(1659-95)はイギリス・バロック前半期を代表する作曲家。1677年18歳で王室弦楽合奏団の常任作曲家の地位を得、1779年にはウェストミンスター・アビーのオルガニストに任命された。1780年、王室常任作曲家として歴代の王、チャールズ2世、ジェームズ2世、ウィリアムズ3世やメアリー2世のために多数作曲、そして教会のためには「聖セシリアの祝日のためのオード」やジェームズ2世とウィイアム3世の戴冠式などにアンセムやサーヴィスを書いた。イギリス音楽は王政復古(1660年)まではヨーロッパ大陸のモノディ様式や協奏曲様式とは無縁であった。パーセルはフランスやイタリアの様式や書法を取り入れ、イギリス伝統による様式や書法特な音楽様式を確立した。

B.作曲の経緯

 オペラ「ディドとアエネアスz626」はパーセル唯一のオペラで、バロックの数あるオペラの中でも名曲中の名曲である。このオペラがチェルシーの友人プリーストが経営する女子高等寄宿学校のために1689年に作曲されたという従来の説は、疑わしい。もっと以前の1683年に作曲され、劇場で上演されたものが、チェルシーの女子寄宿学校でも女子学生が上演できるように、女声の高声部に替え、簡略化して上演されたと考えられる。

 ティトがウェルギリウスの叙事詩「アエネアスの歌」第4巻を基にして台本化した。パーセルはこのオペラ以前に劇場のための作品を書いてはいたが、これを機に劇音楽を作曲している。

C.音楽的特徴

 このオペラはバロック音楽様式の集約といえる。特にフランス風とイタリア風音楽様式が第1幕の序曲に、第2幕の3部分形式のフランス風前奏曲に現れる。続く魔女の歌と合唱では洞窟内のエコーが表現される。その書法は複合唱によるテラス状の強弱が立体的に描かれる。これはバロック音楽の大きな特徴の一つで、オルガンによる第一鍵盤と第二鍵盤を使い分けて強弱の対比を合唱や器楽合奏で管弦楽+合唱を2群に分けてやった。これは以後の時代でもオペラやオラトリオで多用される。舞台裏と舞台上の立体的な掛け合いは、大きな効果を生んでいる。

 主人公に男性優位を重んじる時代であったが、この「ディドとアエネアス」では女性を主人公としている。特にヒロインが悲しみの余り息絶える幕切れは、ロマン派オペラの予兆か。第3幕第2場フィナーレのレチタティーヴォとアリア(哀歌)“私が土の下で横たわる時”では通奏低音による固執低音(5小節の下行の半音階的旋律=哀しみを表現!)が10回繰り返される。その上を美しいソプラノ旋律が展開していく。これはシャコンヌやパッサカリアなどと共通する書法である。

 そしてこのオペラは当時としてめずらしい英語オペラである。イタリア語オペラ最優位の時代に英語劇音楽を樹立した功績は大きい。また英語による劇音楽の原点でもあり、今日の英語劇音楽の祖といってもよいだろう。胆略的過ぎるかもしれないが、今日のロンドン・ミュージカルもパーセル抜きには考えられないかもしれない。これほどコンパクトで魅力あふれるオペラは希有である。


D.トロイア戦争の歴史

 古代都市トロイアは長く伝説上のものと考えられていた。シュリーマンドイツ (1822-90)によりトロイア一帯の遺跡が発掘された。遺跡は9層になっており、シュリーマンは発掘した複数の時代の遺跡のうち、火災の跡のある下から第2層がトロイア戦争時代の遺跡と考えた。後に第2層は紀元前2000年よりも前の地層でトロイア戦争の時代よりももっと古いものと判明した。シュリーマンと共に発掘にあたったデルプフェルトは下から6番めの第6層に破壊や火災のあとがあることから、第6層がトロイア時代のものと考えた。

 1930年代にブレゲンによって再調査が行われ、第6層の都市の火災は部分的で破壊に方向性があることから地震の可能性を推測した。そして第7層の都市は火災が都市全体を覆っていることや、破壊の混乱ぶりから人為的なものであるとした。また、発見された人骨も、胴体と頭部が分離したものが発見され、戦争による破壊を証明し、現在、この第7層がトロイア戦争の時期(紀元前1200年中期)と考えるに至っている。

 トロイア戦争神話と歴史:ゼウスは増え過ぎた人口を調節するためにテミス(ゼウス第2番目の妻)と相談の結果、大戦を起こして人類の大半を死に至らしめた。オリンポス山では人間ペーレウスとティターン族の娘テティスの婚儀が行われていた。エリス(争いの女神)のみこの饗宴に招待されず、怒った彼女は最も美しい女神へ与えると叫んで、黄金の林檎を婚宴に投げ入れた。誰が一番美しいかをめぐって、殊にヘラ、アテナ、アフロディテの三女神による激しい対立が起り、ゼウスはこの判定をトロイアの王子パリスに委ねる。

 三女神はパリスの買収にかかる。ヘラはアシアの君主の座を、アテナはいかなる戦争にも勝利を得る力を、アフロディテは最も美しい美女を与える約束をした。パリスはアフロディテの誘いを選び、スパルタ王メネラオスの妃、美女ヘレネをトロイアへ奪い去る。妻を奪われたスパルタ王メネラオスは、兄のミュケナイ王アガメムノンにその事を告げ、かつオデュッセウス(ユリシリーズ、ウリッセ)と共にトロイアへ向かい、ヘレネの引き渡しを求めて攻めた。

 アガメムノンを総大将とするアカイア軍は、総勢10万、1168隻の大艦隊。トロイア近郊の浜に上陸し、浜に陣を敷く。トロイア軍は強固な城壁を持ち、トロイアの勝利となる。オデュッセウスは、トロイアが勝利の美酒に酔いしれている機をねらって巨大な木馬を造り、その内部に兵を潜ませるという作戦を行使。トロイアはこの策略にかかり一夜で陥落した。その中で秘かにトロイアを脱出したトロイアの王族の一人がアエネアスである。

 トロイアの王アエネアスが、トロイア陥落後、カルタゴの女王ディドとの悲恋を経てイタリアにたどり着き、現地王の娘との婚約とそれに反対する勢力との戦う。そしてローマ建設へと向かっていく。ローマ帝国初代皇帝アウグストゥス(BC.62-AD.14)はアエネアスの子孫と称した。

E:物語

第1幕:トロイア(トロイ)戦争(BC.1200)の後、陥落したトロイア王族の一人の王子アエネアスがカルタゴにに流れ着き、客人になってる。彼は女王ディドと恋に陥る。女王はためらいながらも受け入れていく。

第2幕:洞窟で魔女たちが2人の恋を邪魔立てをたくらむ。狩りを楽しむ二人に魔女が偽りの天からの使者メルクリウスをアエネアスに送り、ローマへ向かえ、そして帝国を建国せよ、これが使命だと命ずる。

第3幕:魔女のはかりごとを信じた優柔不断な王子アエネアスは、カルタゴからローマに向けて出港していく。女王ディドは恋に破れ、嘆きながら侍女に見届けられながら息絶える。

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DVD WPBS90260 パーセル 歌劇「ダイドーとアエネアス」

リチャード・ヒコックス指揮、コレギウム90、 ピーター・マニウラ監督

マリア・ユーイング(S)、カール・ディモンド(Br)、レベッカ・エヴァンス(S)

収録:1995年5月英国ハンプトン・コート・ハウス 発売2009年02月25日

音楽サロン http://homepage2.nifty.com/pietro/

 

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