今から約2000年前、パレスチナ地方のベツレヘムという町で一人の男の子が生まれました。新約聖書のルカ福音書によれば、その家族にはなぜか泊まる場所もなく、母親は生まれた子を布でくるんで家畜の餌入れに寝かせた、とあります。またその子の誕生を最初に知らされたのは、その地方で野宿をしながら夜通し羊の群れの番をしていた、いわば社会の底辺にいる羊飼いたちでした。さらにマタイ福音書によると、おそらくペルシャと思われる東方から占星術の学者たちが星のしるしによってその子の誕生を知り、エルサレムを訪ねました。それを知った時の権力者であるヘロデ王は、自分の地位を奪われることをおそれ、その子のいのちの抹殺を画策しました。それが、旧約聖書で何百年にもわたって預言者たちによって語られてきた、「救い主」の誕生だったのです。聖書のメッセージには、その救い主がわたしたちの現実とかけ離れたところではなく、むしろ人間の罪や弱さや貧しさといったまさに現実の真っ只中に生まれたことが強調されています。そして、神がまずどのような人に目を注ぎ、どんな人々と寄り添おうとされているかが示唆されています。そして2000年前のその出来事が、現在に生きるわたしたちのすべてにつながっているのです。
クリスマスとは、その「救い主」であるイエス・キリストの誕生を記念し、お祝いする時です。神がわたしたちといつも共にいて、常にわたしたちの中で働いておられるしるし、どんな時でもわたしたちに呼びかけられておられるしるしであるお方、その方が世に来られたことを改めて思い起こす時なのです。それは神が「救い主」を世に与えて下さった、その大きな愛に目を向けることにも他なりません。
今年は東日本大震災という、未曾有の大災害が起こった中で迎えるクリスマスとなりました。人類に対してなされた神の大きな愛のしるしに目を注ぐ中で、被災地で生きる方々、またそこで働かれている方々のために祈り、大切な人を亡くされた方々の上に大きな慰めと励ましがありますように、改めて祈りたいと思います。またわたしたちが今できることを続けてゆく中で、被災者の方々にもクリスマスの喜びが与えられますよう、心よりお祈り申し上げます。